○(看護)“婦”から“士”を経て、そして“師”へ

  長らく看護は「女がするもの」との暗黙の了解があった。
その昔、「男がすなる・  ・・、女もしてみんとてするなり」との歴史がある国で、世の殿方がしているものに  関心を持ち、女達がし始めることはたくさんあった。俗に“親爺ギャル”と呼ばれる女性達が街で堂々と酒を飲み、タバコを吸い、競馬、パチンコに止まらず、男を‘買う'輩も出てきたそうな。男女同権もここまではき違 えて欲しくはない。

さて、話は戻って、男女雇用機会均等法なる法律が成立し、先の 看護婦(士)の名称が、男女統一した名称に代わり、“看護師”と決められた。果た して、それで良いのか?読み方が同じ「シ」であれば、安易に“士”から“師”に代 えても良いのだろうか。日本看護協会からは、何の疑問や問題提起は上がってきてい ないようである。 男性から女性に広がった職種に対しての呼び名は、一般に「女性ー」とか、「女ー」 で表されていた。「女性警官」や「女医」等である。ところが看護婦は女性から出発した職業のため「男性ー」や「男ー」とはならずに「看護“士”」と称した。このため、女性に対しては従来通りの「看護婦」と二通りの名称が出き、そこに均等法がきたから、慌てて「“師”に統一してしまおう」とさしたる意味の違いを検討せず、安易に決められてしまった、という経緯が見て取れる。

言葉には本来の意味があり、同音異語を簡単に置き換えて良いとは思えない。そもそも、“士”と“師”にはどのような違いがあるか考えたことがおありだろうか?広辞苑を開けると、その中に“士”とは【接尾】称号・職業名につけて用いる語。「弁護士」とある。また、“師”とは【接尾】或技術の専門の人たる意を表わす語。「医師」とある。これではよく解らない。

そこで、世間でどういう時に“士”や“師”が使われているかを見てみた。“士”に は「消防士」、「司法書士」、「代議士」。「機関士」や「一等航海士」。さらには「整備士」、 「建築士」。最近では「気象予報士」、「宇宙飛行士」等々。一方、“師”には「教師」、「牧師」「薬剤師」、「美容師」、「漫才師」、「占い師」や  「祈祷師」、「陰陽師」。さらには「詐欺師」、「勝負師」、「庭師」「漁師・猟師」等々。さあ、これらから何か印象をつかめたであろうか?どうも“師”は「命あるもの」 を対象にしているようである。“師”には何か‘心に入り込む、魂まで動かすことの出来る'職種かな?と。そして“士”には(勝手に代えられないマニュアル・教本があり、その中で)‘事務的に仕事を進める'職種というニュアンスが見て取れよう。私見ではあるが、医師や看護師もマニュアルどおりにしか、動けない新米者やとっさの出来事に機転の利かない者達は、“士”の領域であり、マニュアルを越えて、人の心にまで入って、仕事が出来る者が“師”ではないかと考えた。

自問自答したい。私は医“師”であろうかと。そして仕事のパートナーである看護“婦(士)”も出来れば“師”であって欲しい。日々の研鑽を怠らず、マニュアル仕事でなく「人々の琴線に触れる仕事を、私はこれからもしていきたい」と思っている。